医療機関ウェブサイト広告規制 ~施⾏から5年の成果を調べてみた~
2018年6月1日に改正医療法が施行され、医療広告ガイドラインの運用がスタートしました。
医療機関ウェブサイト広告規制 ~2018年6月1日改正医療法が施行~それから約5年が経過した今、医療広告ガイドラインの成果はどうだったのか見ていきたいと思います。
ネットパトロールの概況
まずは医療広告ガイドライン運用に先駆けて、2017年8月よりスタートしたネットパトロールの概況について見ていきましょう。
ネットパトロールについては下記記事をご確認ください。
医療機関ウェブサイトのネットパットロール開始、一般者からの通報も受付公表されている過去3年間の結果は以下の通りです。
ネットパトロール概況(2022年3月31日時点)
2019年度 | 2020年度 | 2021年度 | |
---|---|---|---|
通報受付サイト数 | 10,300 | 9,472 | 7,378 |
審査実施サイト数 | 1,204 | 1,205 | 1,123 |
違反のあったサイト数 | 1,172 | 1,092 | 847 |
改善したサイト数 | 889 | 907 | 742 |
改善不足または未改善のサイト数 | 143 | 116 | 71 |
医療機関対応中のサイト数 | 140 | 69 | 34 |
通報数や違反のあったサイト数は徐々に減っているので、一見医療広告ガイドラインの成果が表れているように見えます。
ネットパトロール事業者からの注意喚起で改善に至らない場合、管轄の自治体へ通知をすることになっていますが、そちらの状況についても見てみましょう。
管轄自治体への通知後の状況(2022年3月31日時点)
2019年度 | 2020年度 | 2021年度 | |
---|---|---|---|
通知したサイト数 | 145 | 116 | 96 |
改善したサイト数 | 108 | 77 | 21 |
継続対応中 | 37 | 39 | 75 |
こちらも通知したサイト数は減っていますが、1年以上たっても改善しないサイトが約3割もあるのが気になります。
自治体での対応状況
医療広告ガイドラインでは、自治体による中止命令若しくは是正命令に従わなかった場合、6月以下の懲役又は30万円以下の罰金や行政処分が科せられると規定されています。
医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針(医療広告ガイドライン)より
エ 告発
① 直接罰の適用される虚偽広告(法第6条の5第1項違反)を行った者が中止若しくは内容の是正の行政指導に応じない場合
② 法第6条の8第1項による報告命令に対して、報告を怠り、若しくは虚偽の報告をした場合
③ 同項による立入検査を拒み、妨げ、若しくは忌避した場合
④ 同条第2項による中止命令若しくは是正命令に従わず、違反広告が是正されない場合
には、刑事訴訟法(昭和 23 年法律第 131 号)第 239 条第2項の規定により、司法警察員に対して書面により告発を行うことを考慮すべきである。
なお、罰則については、①の虚偽広告、法第6条の6第4項に違反する場合(麻酔科の診療科名を広告する際に、併せて許可を受けた医師の氏名を併せて広告しなかった場合)又は④の中止命令若しくは是正命令に従わなかった場合には、6月以下の懲役又は 30 万円以下の罰金(法第 87 条第1号)、②の報告命令又は③の立入検査に対する違反の場合には、20 万円以下
の罰金(法第 89 条第2号)が適用される。
オ 行政処分(法第 28 条、第 29 条関係)
病院又は診療所が悪質な違反広告を行った場合には、エに示した告発のほか、行政処分として、必要に応じ法第 28 条の規定に基づく管理者変更命令又は法第 29 条第1項第4号に該当するとして、同項の規定による病院又は診療所の開設の許可の取り消し、又は開設者に対し、期間を定めて、その閉鎖を命ずることが可能であるので、行政処分の実施を考慮すべきである。
これまで罰則などが科せられた事例があるか調べた所、2023年1月12日に開催された「第20回 医療情報の提供内容等のあり方に関する検討会」の議事録に下記のようなやり取りがありました。
第20回 医療情報の提供内容等のあり方に関する検討会 議事録より
広告に関する指導についての法的な権限については、最初は調査や行政指導から入っていくわけですが、その後命令や立入検査など、そういった権限自体はきちんと定められておりまして、これをきちんと都道府県で運用していただいて進めていただきたいと考えておりますが、罰則に至った例は今のところは聞いてはいないところでございます。直ちに罰則に持っていくのは適切ではないとは考えておるところでございますが、長期にあまりにも改善されないのは不適切でございますので、今後も都道府県できちんと対応していただくように、こちらとしても引き続き検討してまいりたいと考えております。
通知より数年以上経っていても罰則の適用事例はなく、違反した広告は表示されたままになっているという状況のようです。
罰則の前段階にあたる「中止命令」や「是正命令」の事例についても同じ検討会で議題に上がっていました。
第20回 医療情報の提供内容等のあり方に関する検討会 議事録より
○幸野構成員
これも質問と意見なのですけれども、先ほど福長構成員が実績はあるのかということを聞かれて、実績はないということだったのですが、最後のページに載っております「広告指導の体制及び手順」、いわゆる医療広告ガイドラインに従って国から指導されているわけなのですけれども、告発や行政処分はなかったということなのですが、その上の中止命令や是正命令の実績はあるのでしょうか。○尾形座長
これは事務局、お願いします。○矢野調整官
事務局でございます。
これもないと認識しております。○尾形座長
幸野構成員。○幸野構成員
では、その上の報告命令または立入検査はあるのですか。○矢野調整官
こちらもないと認識しております。○幸野構成員
そこに問題があると思います。ガイドラインがちゃんとあるわけですから、8割、9割は改善されていっているのですが、1割どうしても改善しないところについては、ガイドラインに従って行政指導までは行っているのでしょうけれども、それでも駄目ならば報告命令あるいは立入検査、中止命令、是正命令といった形でガイドラインどおりに行政がやらなくてはいけないのですけれども、そこは行政としての怠慢ではないかと指摘させていただきます。このガイドラインに従ってちゃんと履行されていればそれなりの危機感を持って、すごい抑制効果になると思います。罰則規定が適用されないので違反に対する危機意識が希薄になっていて、これならば逃げ切れるのではないかという意識が1割として残っているのだと思います。前回指摘したときもこの法の趣旨に従って対応していきますという発言があったにもかかわらずまだ実績がないところは行政としての怠慢であって、ちゃんとガイドラインにのっとって命令をして、期限を決めて、その命令に従わないときは告発あるいは行政処分というガイドラインがあるわけですから、これを履行していくことが一番の抑制の効果だと思いますので、これはぜひ今後実行していただきたいと強くお願いいたします。
「中止命令」や「是正命令」の事例もなく、そのもう一つ前に行う「報告命令」や「立入検査」さえも1回もないとは、ガイドライン上の規定が全く機能していないことが分かります。
これにはさすがに検討会参加者の方からも厳しい指摘が入っていますね。
美容医療に関する相談件数
医療広告ガイドラインが策定された経緯は「美容医療に関する相談件数が増加している背景として医療機関のウェブサイトでのユーザーに誤解を与える誤った情報配信があるため、それを法的に規制しよう」という趣旨でした。
そのため、医療広告ガイドラインの大きな目的は美容医療に関する相談件数を減らすということになります。
では美容医療に関する相談件数はここ数年どうなっているのでしょうか?
独立行政法人国民生活センターサイト上で、PIO-NET(全国消費生活情報ネットワークシステム)に登録された美容医療に関する相談件数が掲載されていましたので紹介します。
PIO-NET(全国消費生活情報ネットワークシステム)とは、国民生活センターと全国の消費生活センターをネットワークで結び、消費者から消費生活センターに寄せられる消費生活に関する苦情相談情報(消費生活相談情報)の収集を行っているシステムです。
PIO-NETに登録された相談件数の推移(2022年12月31日時点)
2019年度 | 2020年度 | 2021年度 | 2022年度 | |
---|---|---|---|---|
相談件数 | 2,036 | 2,209 | 2,766 | 2,464 (前年同期1,853) |
相談件数は減るどころか毎年増加しており、おそらく2022年度も前年を上回る数字になると考えられます。
最後に
いかがだったでしょうか?
医療広告ガイドラインに関する結果を数字でまとめましたが、現状では十分な成果が出ているとは言えず、実効性の観点からも目的を達成するための有効な手段として機能しているとはまだまだ言い難い結果でした。ガイドライン上の規定を厳格に遂行することはもちろんですが、別の方法での対策も検討していく必要があるのではないかと思います。
この記事を書いた人
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大学卒業後、バンド活動を経て2003年にアーティスへ入社。
営業兼コンサルタントとして、これまで携わってきたWebサイトは500サイト以上、担当したクライアント数は300社以上にのぼる。
現在は、豊富な経験を活かした提案を行いながら、ソリューション事業部 部長として事業戦略の勘案や後進育成にも取り組んでいる。
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